kore de iinoda

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2005年 12月 24日

デジャブ酒

しらな~い~ま~ちを~
たびし~て~み~た~い~
ど~こ~か~とお~く~へ~い~きた~い

とうとう寝ている間に
ねずみに襲われたわたしは
朝まで毛布を頭からかぶりふるえていたが
ねずみたちが寝静まった隙を見計らい
齧られた鼻をマスクで覆い隠し
こっそりと家を出た
とうとう ここにも居られなくなった…。
そして今、
どうしようもない敗北感を胸に
行き場を失ったわたしは
トレンチコートの襟を立てて
降りたことの無い駅のホームにたたずんでいる
阿佐ヶ谷を発ち早10時間
ここはいったいどこだっぺ??
木枯らしぴいぷう 吹いている

「ねえちゃん、死にてえのかい?」
振り向くとそこには粋なハットをかぶった マ、マイコー?
ムーンウォークで徐々に近づいてくるあなたは
あの、マイコーさんでは?
「鼻をかじられたくれえで電車に飛び込もうたぁ、テントウムシが許しても
 このマイコーさまが黙っちゃいねえぜ!」
「い、いや…。そんなつもりは…。」
「ほら、これを見ろいっ。」
マイコーはわたしにウインクすると自分のマスクを取った。
「うっ…」
「俺たちゃ お仲間だぜい。フォー!」

1時間後 わたしとマイコーさんは
駅前の屋台のおでんやで寒さに震えながら熱燗をかたむけていた。
二人ともマスクをしているので一口呑むたびに
マスクをずらさなきゃならない。不便だ…。
「お二人とも、これを使いなせぇ。」
みかねた屋台のオヤジがふところからストローを二本取り出す。
「お、これはありがてえ。」
マイコーは慣れた手つきでマスクの中にストローを差し込むとちゅうちゅうやりだした。
「ところで、おやっさん。ここにはあの幻の酒、
 ボヘミアンがあると聞いて来たんだが…。」
オヤジは慌ててわたしとマイコーから目をそらした。
(ボヘミアン…?あの幻の酒がこんな片田舎の寂れた街の屋台のおでんやに…?)
わたしは武者震いのあまり握っていた箸をまっぷたつに折ってしまった。
オヤジはしばらくあごひげを撫でながら考え込んでいたが
ふとニヒルな笑みをもらすと。
「お客さん。相当 通ですな…。
 おれっちの屋台は今日は東にあしたは南にと毎日場所を変え
 今日はおでんや、あしたはシシカバブ屋と毎日品を変え
 今日は中国人、あしたはインド人と毎日変装して 
 それでもボヘミアンがここにあるとわかってくる奴は3年に一度くれえか。
 よし、気に入った!呑ませてやろう!」
オヤジは長い棒でおでんの鍋をかき回し始めた。
どうやら二重底になっているようだ。
そして、ざバーっと年代もののビンがおでん汁の中から登場した。
ビンが光りを放っている…??
そのとき、わたしは見たんだよ。
光る小さな妖精たちが
ビンの周りを幾重にも取り囲み
小さな小さな声で笑いさざめきながら夜空へ飛び立っていくのを…。
オヤジは妖精たちに優しい笑顔を向けながら
「ありがとよ…」
と、つぶやいた。

オヤジはコップを二つ取り出すとビンをかたむけ白い液体を注いだ。
「ほら、これがボヘミアンだ。心して呑みなせえ。」
「あ、ありがたく…。」
マイコーは三つ指をついてお辞儀をした。
どうやらこれがボヘミアンを呑むときの作法らしい。
わたしもマイコーの真似をして三つ指をつく。
「あ、ありがたく…。」
マイコーはマスクから飛び出させたストローをその白い液体に突っ込んだ。
ちゅるちゅるちゅるちゅる。
ストローの管の中を白い液体が少しずつせりあがっていくのが見える。
しかし本当に少しずつだ…。
ちゅるちゅるちゅるちゅる。
マイコーの息が荒くなってきた。ぷはっ。ごほごほ。
「お、おやっさん。ハアハぁ、なかなか呑めねえぜ。ハア。」
「ふふふ。ボヘミアンを呑むには相当な肺活量が必要でねえ。
 ここで挫折する輩も多いね。」
オヤジはまたもニヒルに笑うと、店じまいをはじめた。
「おれっちはあしたの仕込があるんで帰るぜ。」
そう言うとオヤジは屋台を引きながらゆっくりと暗闇に消えていった。

わたしも負けじとチャレンジしてみる。
ちゅるちゅるちゅるちゅる。
ん、確かに後一息のところで息が続かなくなる。
ちゅるちゅるちゅるちゅる。ちゅるちゅるちゅるちゅる。ちゅるちゅるちゅるちゅる。
マイコーとわたしのストローの音だけが寒空にこだまする。こだまする。こだまする。

じゅるじゅるじゅるじゅる。
(こ、これは…?)
う、うまい  
とかそんな生半可な言葉では片付けられないこのえもいわれぬ風味。
あえて表現するなら
へ不whlchlうycr下qrtqr97s f とっつぁんで~す。

二人は顔を見合わせた。どうやら同時に酒を吸い込むことに成功したようだ。
辺りの景色が急に明るくなり華やかになる。
ここはもしかして、もしかして、ネバネバランド???
あたり一面花畑の真ん中で
金髪碧眼の天使のような子供たちが
無邪気に笑いながら納豆を食っている。
どうした?わたし?なぜか笑いが止まらない。
しかも無性に納豆が食いたい…。
いつのまにかマイコーも子供たちに混じって笑いながら納豆をかきまわしている。
「ぬぅはははは。ぬぅはははは。ぬぅはははは。」
(これだあ~、これだったんだ~。わたしの求めていた世界わ…!!)
「もっとネバネバもっとネバネバ、もっともっと、もっとネバネバもっと。」
お互いがお互いを励ましあい牽制しあい励ましあい牽制しあい
粘れば粘る分だけ幸せ感が押し寄せる。ふふ、なんてステキ。
「ぬぅはははは。ぬぅはははは。ぬぅはははは。ぬぅはははははは…」

「あれ??ここはどこ?わたしは誰?」
ガっく~ん、阿佐ヶ谷じゃん。がっく~ん。西友じゃん。
目が覚めるとわたしは西友の三階のベンチに座っていた。
ふとマスクに手をやると、お?!齧られたはずの鼻が元通りになってる。
わたしはマスクを永チャンばりに観衆に向かって投げつけると
スキップしながら西友を出た。
「ありがとお~っ!マイコー!ありがとお~!!」
クリスマスイブの阿佐ヶ谷は
小雨がそぼ降る港町ブルースのように暖かく
逃亡したわたしをまた迎えてくれた。
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by orphee--room | 2005-12-24 11:42


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